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「原因不明の頭痛」の正体は、15年前のインプラントだった――歯科医師の直感が救った2年越しの苦しみ

2025.12.23


「原因不明の頭痛」の正体は、15年前のインプラントだった――歯科医師の直感が救った2年越しの苦しみ

はじめに:医療の境界線で見落とされる「真犯人」

「頭痛がひどくて検査をしたら、副鼻腔炎(上顎洞炎)だと言われた。でも、耳鼻科や脳外科で治療を受けても一向に良くならない……」

このような悩みを抱えて、病院を転々とする方は少なくありません。実は、鼻や頭のトラブルの背後に「歯」が隠れているケースが多々あります。医学用語で**「歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)」**と呼ばれるこの病態は、医科と歯科の境界線上にあり、実は非常に見落とされやすい疾患なのです。

今回は、先日当院を訪れたある患者さんの事例をご紹介します。2年もの間、原因不明の体調不良に苦しんだその背景には、15年という歳月が招いた落とし穴がありました。

15年前の成功と、静かに進んだ「崩壊」

その患者さんがインプラント治療を受けられたのは、今から15年も前のことでした。当時は「何でも噛めるようになった」と大変喜ばれ、食生活の質も劇的に向上したそうです。

しかし、その後の人生は多忙を極めました。「痛みがないから」「仕事が忙しいから」という理由で、次第に歯科医院での定期的なメンテナンスから足が遠のいていきました。

インプラントは天然の歯よりも細菌感染に弱く、自覚症状が出にくいという特徴があります。患者さんが仕事に邁進していた15年の間に、お口の中では「インプラント周囲炎」と「歯周病」がじわじわと、しかし確実に進行し、インプラントを支える骨を溶かし続けていたのです。

脳神経外科での診断、しかし消えない苦しみ

異変が顕著になったのは2年前のこと。患者さんは耐え難い頭痛に襲われるようになりました。

「脳に何か異常があるのでは?」

不安に駆られた患者さんは脳神経外科を受診し、MRI検査を受けられました。

検査の結果、脳に異常はありませんでしたが、画像診断で一つ指摘されたことがありました。

「上顎洞(じょうがくどう)に強い炎症が起きています。いわゆる上顎洞炎(蓄膿症)ですね」

上顎洞とは、頬の奥、鼻の横にある空洞のこと。そこが膿で満たされていることが、頭痛の原因だと診断されたのです。しかし、そこからが苦難の始まりでした。脳神経外科や耳鼻科で治療を試みても、一時的に症状が和らぐだけで、根本的な解決には至りません。

「なぜ、上顎洞炎が治らないのか?」

その根本的な原因は、医科の精密検査でも解明されることはありませんでした。

運命のメンテナンス:歯科医師が見抜いた「根源」

そんな患者さんが、たまたま当院にメンテナンスのために来院されました。実に数年ぶりの再会でした。

私は患者さんの顔色を見て、すぐに異変を感じました。そしてお口の中を診査した瞬間、その疑念は確信に変わりました。インプラント周囲の歯肉は赤く腫れ、深いポケットからは排膿が認められたのです。

患者さんから「脳神経外科で上顎洞炎と言われたけれど、原因がわからず2年も頭痛に困っている」というお話を聞いた際、私は即座にこうお伝えしました。

「その上顎洞炎の原因は、間違いなくこの歯周病とインプラントですよ」

患者さんは絶句されていました。鼻の病気が、まさか15年前のインプラントや、放置していた歯周病から来ているとは夢にも思っていなかったからです。

歯科CTが証明した、真っ白な空洞

真実を明らかにするため、すぐに精密な歯科用CT撮影を行いました。モニターに映し出された画像は、衝撃的なものでした。

(※本来は黒く映る空洞が、炎症で真っ白になっている様子)

通常、空気で満たされているはずの上顎洞はCTでは「黒く」映ります。しかし、この患者さんの画像では、上顎洞が炎症による膿と粘膜の腫れによって完全に「真っ白」に埋まっていました。

そしてその炎症の起点は、重度歯周病に侵された歯と、細菌感染を起こしたインプラントの根元にありました。これこそが「歯性上顎洞炎」の正体です。

どんなに鼻から薬を入れても、原因である「歯の感染源」を取り除かない限り、この炎症が治まることはありません。MRIは「結果」としての炎症を映し出しましたが、その「原因」が歯にあることまでは指摘できなかったのです。

抜歯という決断、そして訪れた劇的な快復

私たちは、原因となっているインプラントと、周囲の骨を破壊していた歯を抜去(抜歯)することにしました。患者さんにとっては大切にしていた歯を失う苦渋の選択でしたが、「2年間の苦しみから解放されるなら」と、手術を決断されました。

手術から数週間後。

あんなに患者さんを苦しめていた頭痛は、霧が晴れるように消えていきました。再撮影したCT画像では、真っ白だった上顎洞が本来のクリアな黒い影へと戻り、炎症がきれいに消失していることが確認できました。

(※術後の綺麗なCT写真)

患者さんは「まさか、原因が歯だったなんて。もっと早くメンテナンスに来ていれば……」と、驚きと安堵が混ざったような表情で語ってくださいました。

結び:メンテナンスは「全身の健康」を守る最後の砦

今回の症例は、私たち歯科医師にとっても非常に重要なメッセージを含んでいます。

  1. インプラントは「入れて終わり」ではない。

  2. お口の炎症は、頭痛や鼻のトラブルなど、全身の不調と密接に関わっている。

  3. 「痛みがない」は「健康」を保証するものではない。

患者さんが「忙しい」という理由でメンテナンスを怠った15年間。その代償は、2年間の激しい頭痛という形で現れてしまいました。

最後にお伝えしたいことがあります。

もし今、この記事を読んでいる方の中に、**「頭が痛い」「鼻水が止まらない」「鼻の奥が臭う」**といった症状があり、病院へ行ってもなかなか改善しないという方がいらっしゃれば、一度「歯」を疑ってみるのも手かもしれません。

私たち歯科医師は、あなたのお口の中にある「小さなSOS」を感じ取り、全身の健康を守るお手伝いができます。10年後、20年後の笑顔のために、どうか定期的なメンテナンスを大切にしてください。


ご相談・お問い合わせ

原因不明の不調やお口のお悩みなど、お気軽にご相談ください。

医療法人 金子デンタルオフィス

電話番号:028-688-8100

(※初診・検診のご予約も承っております)

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