1本のインプラント、でも私が見ているのはお口全体です。
〜当院患者からのご紹介で来院された60代女性の症例から〜
「左下の一番奥の歯が痛くて、ずっと治らないんです。診ていただけますか。できればインプラントで治したいと思っています」
当院に通院中の患者さんからのご紹介で、60代の女性が来院されました。痛みが取れないまま3ヶ月以上が経過していました。
なぜ、3ヶ月治療しても痛みが取れなかったのか
前医では左下の一番奥の歯(左下7番)に対して、根管治療を繰り返していました。しかしX線写真を見ると、根尖部の骨や組織が破壊されている可能性が確認されました。この状態では、何度根管治療を行っても炎症と痛みは収まりません。
治療の方向性が違えば、どれだけ時間をかけても結果は出ない。これが現実です。
左下7番は根尖破壊の可能性が高く、保存困難と判断しました。患者さんのご希望通り、インプラントへ移行する方針を立てました。
仮に根管治療が成功しても、ブリッジは最初から選択肢にない
ここで大切なことをお伝えします。
仮に根管治療がうまくいき、左下7番を残せたとしても、ブリッジという選択肢は最初からありませんでした。
判断の基準はシンプルです。「補綴で十分に噛めるか」「長期的に持つか」この2点です。
隣の左下5番(奥から3番目の歯)の歯根は非常に短い。ブリッジの支台歯にするということは、この短い根に、失った歯の分まで咬合力を負担させることを意味します。噛む力に構造的に耐えられず、長期的な予後も期待できません。いずれ支台歯ごと失うリスクが高い。
7番の治療結果がどうであれ、ブリッジにすれば予後は悪い。インプラントが最初から唯一の正解だったのです。
「ブリッジにすると噛めなくなる気がする」という患者さんの直感は、まさに正しい感覚でした。
1本のインプラントを長持ちさせるために、全体を診る
インプラントを1本入れて終わり、では私の仕事は完結しません。
全体のパノラマX線写真を見ると、上下の歯がかなりすり減っていることがわかります(咬耗)。これは長期間にわたるブラキシズム(歯ぎしり・食いしばり)のサインです。歯がすり減ると顎の位置(顎位)が変化し、噛み合わせの力がさらに強くなる悪循環が生じます。インプラントにとって、過大な咬合力は最大のリスク因子のひとつです。
上顎の7番がすでに欠損しているため、対合歯のない下顎7番にインプラントを入れても、噛み合わせとして機能しません。そのため下顎6番に1本インプラントを植立し、しっかりと噛める環境を整えることにしました。噛み合わせの相手がいて初めて、インプラントは本来の力を発揮します。
私はインプラントを隣の歯と連結しません。独立した1本として機能させることが、清掃性を保ち、長期的な予後につながると考えているからです。
今回の患者さんには、インプラント治療と並行して、顎位の安定とブラキシズムのコントロールも必要です。この視点なしに治療を進めれば、数年後に必ず問題が起きます。
木を見て、森を見ずでは20年持たない
インプラントは「1本の歯を入れる治療」ではありません。
お口全体の咬合力、顎位、残存歯の状態、骨の質と量、ブラキシズムの有無。これらをすべて把握した上で初めて、「どこに」「どのサイズで」「どの角度で」植立するかが決まります。
1本のインプラントの裏側には、お口全体を診る視点があります。それが20年機能するインプラントの条件です。
金子デンタルオフィスでは、インプラントをご希望の方に対して、必ずお口全体の精密診査を行った上で治療計画をご提案しています。
他院で「治らない」「原因がわからない」と言われた方も、ぜひ一度ご相談ください。
医療法人 KANEKO DENTAL OFFICE
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日本口腔インプラント学会指導医 歯学博士 金子泰英