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前歯のインプラントを美しく完成させるために ― 奥歯から始めるかみ合わせ治療

2026.06.20

前歯のインプラントを美しく完成させるために ― 奥歯から始めるかみ合わせ治療

患者様のケース

今回ご紹介するのは、50代男性の患者様の症例です。

この患者様は、かみ合わせの力が非常に強く、さらに左側の奥歯を失っている状態でいらっしゃいました。

初診の際、患者様は「前歯をきれいにしたい」というご希望をお持ちでした。しかし、お口の中を拝見すると、このまま前歯だけを治療しても、長くは持たないことが明らかでした。

なぜ前歯だけの治療は危険なのか

患者様には、率直にお伝えしました。

「左の奥歯を入れて、きちんとバイト(かみ合わせの高さ)を上げない限り、前歯にすべての力がぶつかります。そうなれば、どんなに良い前歯を入れても、いずれ壊れてしまいます」

奥歯を失ったまま放置すると、かみ合わせの高さが低くなり、本来奥歯が受け止めるはずの力が、すべて前歯に集中してしまいます。これは物理的な構造の問題であり、技術や材料でどうにかなる話ではありません。

幸いにも、この患者様はこの説明をきちんと理解してくださいました。

これは決して、その場の思いつきでお伝えしていることではありません。三十年にわたり臨床の現場でかみ合わせと向き合い続けてきた経験から、確信を持って申し上げていることです。

当院で行った治療の流れ

ご納得いただいた上で、以下の順序で治療を進めました。

まず、かみ合わせの位置そのものを見直しました。厳密には、電気刺激(TENS)を用いて筋肉の状態を確認しながら、本来あるべき正しいかみ合わせの位置を探り出し、修正していきました。

次に、左側の奥歯にインプラントを行い、失われていたかみ合わせの高さを取り戻しました。ここが土台となる、最も重要な工程です。

そして最後に、ようやく前歯の治療に進みました。土台となる奥歯としっかりとしたかみ合わせの位置が整っていたからこそ、前歯は無理なく、美しく収まりました。

治療期間は、トータルで約1年です。

「前歯だけ」を先にやらない理由

正直に申し上げますと、前歯を先に治療してしまうと、患者様の多くはそこで満足され、通院をやめてしまわれます。見た目が整えば、治療が終わったように感じるのは自然なことです。

しかし、その後に待っているのは厳しい結果です。あごの位置がずれていくか、あるいは前歯が再び壊れるか、そのどちらかになってしまいます。

「奥歯を先に」とご説明しても、すぐにはご理解いただけない患者様も少なくありません。それでも私たちは、奥歯がしっかりしていてこそ前歯が美しく見え、そして長く保たれるということを、丁寧にお伝えし続けています。

ホームページの写真の先にあるもの

ホームページやSNSには、美しく整った前歯の写真がたくさん並んでいます。けれども、その奥にある奥歯のかみ合わせが本当にしっかりしているかどうかは、写真からは見えません。

奥歯がしっかりと役割を果たしていれば、その美しい前歯は長く持ちます。しかし、前歯だけを治療したケースは、残念ながらそう長くは持たないものです。

この違いを見極め、本当に長持ちする治療を組み立てることこそが、私たち歯科医師の仕事だと考えています。簡単なことではありませんが、それを生きがいとして、日々の診療にあたっています。

術前写真

術後写真 インプラント完成


医療法人 KANEKO DENTAL OFFICE

日本口腔インプラント学会 指導医  理事長 金子 泰英

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