90歳、17年前のインプラントが教えてくれたこと
先日、90歳の患者様がメンテナンスにいらっしゃいました。この方は17年前、
当院で13本のインプラント治療を受けられた方です。
17年という歳月は、決して短いものではありません。
その間、被せ物を交換したことはありましたが、
歯肉のトラブルは一度もなく、レントゲン検査でも
インプラント周囲の骨吸収は認められませんでした。
長期にわたり安定した経過を保てていることに、まず安堵いたしました。
今回いらっしゃった理由は、噛むと痛みがあるというものでした。
拝見したところ、原因はインプラントのスクリューが
緩んでいたことによるものでした。
締め直すだけで痛みは解消し、処置自体は短時間で終わりました。
私が今回、率直に驚いたのは、痛みの原因そのものよりも、
口腔内全体の状態でした。コロナ禍の影響でしばらく
通院が途切れていた期間があったにもかかわらず、
口の中は非常に清潔に保たれていたのです。
(コロナ前は隣の市からバスを乗り継いできていました)
90歳という年齢を考えると、これは決して当たり前のことではありません。
口腔内にトラブルがない方は、やはり全身状態も健康であることが多いと、
あらためて実感いたしました。
これは臨床経験を重ねる中で何度も感じてきたことですが、
今回のケースはその実感をさらに強めるものでした。
しっかり噛める、痛みなく咀嚼できるということは、
単に食事を楽しめるという以上の意味を持ちます。
咀嚼機能は全身の栄養状態、脳の活性化、
そして生活の質そのものに深く関わっています。
インプラント治療において重要なのは、埋入した瞬間の技術だけでは
ありません。むしろ、その後何十年にもわたって
どのように機能し続けるか、という長期的な視点こそが本質だと
考えております。今回のように17年間、骨吸収もなく機能し
続けているという事実は、埋入時の設計、精密な咬合調整、
そして患者様ご自身の日々のセルフケアが
噛み合った結果だと感じております。
高齢になってからも自分の歯、あるいは自分のインプラントで
しっかり噛めるということは、健康寿命そのものを支える
土台になります。今回の90歳の患者様のように、
長い年月を経てなお良好な状態を維持されている方を拝見すると、
私たち歯科医療に携わる者の役割の重さを、
あらためて感じずにはいられません。
ちゃんと噛める。この当たり前のようで実は当たり前ではないことを、
これからも一人でも多くの患者様にお届けできるよう、
日々の診療に取り組んでまいります。
医療法人 KANEKO DENTAL OFFICE
日本口腔インプラント学会 指導医・専門医
歯学博士 金子泰英

