筋トレにマウスピースは必要?
マウスピース矯正を経験した歯科医師がお伝えしたい、
噛み合わせのお話
はじめに
こんにちは。宇都宮市の医療法人 KANEKO DENTAL OFFICE 院長、金子です。
実は、当院のブログの中で思いのほか多くの方に読んでいただいているのが、
「筋トレにマウスピースは必要ない」という記事です。いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
この記事にたどり着いてくださる方の多くは、トレーニングを頑張りながら、
「マウスピース矯正をやってみようかな」と考えている方ではないかと感じています。
そこで今回は、私自身もマウスピース矯正を経験した一人として、
内容を新しく書き直しました。筋トレとマウスピース、そして噛み合わせの関係について、
できるだけやさしくお話しできればと思います。
筋トレ用のマウスピースと、矯正用のマウスピースは別のものです
同じ「マウスピース」という言葉でも、トレーニング中に歯を守るために使うものと、
歯並びを整えるための矯正用マウスピース(アライナー)は、役割がまったく違います。
重いものを持ち上げるときに、ぐっと歯を食いしばることがありますよね。でも、だからといって、
どなたにも必ずマウスピースが必要というわけではありません。
それよりも大切にしていただきたいのは、上下の歯が本来の位置で、
安定して噛み合っていることです。噛み合わせが整っていると、
力を入れる瞬間に奥歯でしっかりと受け止めることができます。
反対に、噛み合わせが不安定なままだと、力を入れるたびに顎がずれたり、
一部の歯にだけ負担が集中したりすることがあります。
歯が欠けたり、しみたりする原因になることもありますので、
気になる症状がある方は、マウスピースを買う前に、
まず一度お口の状態を確認してみることをおすすめします。
マウスピース矯正は「手軽に、いつでも」とは限りません
マウスピース矯正には、うれしいメリットがたくさんあります。
装置が目立ちにくいこと、取り外しができること、食事や歯みがきがしやすいことなどです。
お仕事や人前に出る機会が多い方にとって、とても心強い選択肢だと思います。
一方で、知っておいていただきたいこともあります。
一般的には1日20時間以上の装着が必要になること、
毎日の自己管理が結果に大きく関わること、
そして歯の動かし方によっては得意ではないケースもあることです。
「手軽に、いつでも歯並びが整う」というイメージを持たれることも多いのですが、
どなたにも同じように進む治療ではありません。
メリットとデメリットの両方を知ったうえで選んでいただくことが、
後悔しない矯正への第一歩になります。
私自身もマウスピース矯正を経験しました
実は私も、マウスピース矯正を経験しています。
患者さんの立場になって初めてわかったことが、たくさんありました。
その中で強く感じたのは、歯並びと噛み合わせをきちんと整えることが、
トレーニングのしやすさにもつながるということです。
私はマスターズ陸上で短距離に取り組んでいますが、
奥歯で安定して噛めるようになってから、スタートで踏み込む瞬間や、
ウエイトトレーニングで力を込める瞬間に、体の軸がぶれにくくなったと感じています。
もちろん、これはあくまで私個人の感想です。
すべての方に同じ変化が起こるとお約束できるものではありません。
それでも、歯科医師として、そしてトレーニングを続ける一人として、
噛み合わせと体の使い方は深くつながっていると日々実感しています。
「奥歯が当たらない」と感じたら
他院でのマウスピース矯正中の方から、よくこんなご相談をいただきます。
「最近、奥歯が当たらなくなって、前歯ばかり当たる気がするんです」
不安になりますよね。私自身も装着中に、噛み合わせの感覚が変わっていくのを経験しましたので、
そのお気持ちはよくわかります。
この状態は、一般的には「マウスピースの厚みで奥歯が押し込まれるため」
と説明されることが多いようです。ですが、私は臨床の経験から、少し違う見方をしています。
私が注目しているのは、顎の関節の位置です。マウスピースを入れることで、
下顎の関節が少し前へ移動すると、その分だけ奥歯の間にすき間ができて、
前歯だけが当たる状態になります。つまり、奥歯のすき間は歯だけの問題ではなく、
顎関節の位置の変化があらわれたものだと考えているのです。
治療計画の段階で、大きな違いが生まれます
この仕組みを考えないまま、奥歯のすき間だけを埋めようとすると、
マウスピースの作り直しや調整が何度も続いてしまい、
治療がなかなか終わらないことがあります。歯を動かしても、
関節の位置が前にずれたままでは、根本的な解決につながりにくいからです。
治療が長引くと、通院の負担はもちろん、「本当に終わるのかな」
という気持ちの負担も大きくなってしまいます。だからこそ、最初の計画がとても大切なのです。
当院では、治療を始める前の段階から、顎関節の位置を考えて治療計画を立てています。
必要に応じて奥歯を噛み合わせの方向へ少しずつ引き出し(挺出)、
前歯が強く当たりすぎないように設計していきます。
治療中も、噛み合わせの変化を丁寧に確認しながら進めていきますので、気になることはその都度、遠慮なくお話しください。
見た目の歯並びだけでなく、奥歯でしっかり支えられる噛み合わせをつくること。
それが、トレーニングにも毎日の生活にも役立つ矯正治療だと、私は考えています。
おわりに
筋トレにマウスピースが必要かどうかを考える前に、
まずはご自身の噛み合わせが安定しているか、一度気にかけてみてください。
そして、マウスピース矯正を考えている方は、歯並びの見た目だけでなく、
顎関節の位置まで含めて治療計画を立ててもらえるかどうかを、ぜひ相談のときに確かめてみてください。
すでにマウスピース矯正中で、「奥歯が当たらない」「前歯ばかり当たる」と感じている方も、
どうか一人で悩まないでくださいね。原因がわかれば、改善への道すじはきっと見えてきます。
気になることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。
医療法人 KANEKO DENTAL OFFICE
日本口腔インプラント学会 指導医・専門医
歯学博士 金子泰英